第三回東莞和僑会:議事録

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■「原田式マネジメントの理論と実践」

経営学教授と学生が10年にわたって観察した,原田式経営の真髄・「信頼型経営」について話をする.

中国華南は世界の工場上といわれているが,その工場は次の三つのタイプに分類される.

  • 普通の工場
  • 希望の工場
  • 絶望の工場

華南の企業には以下のタイプがある.

  • X型企業
    労働集約型の企業であり,製品・サービスの付加価値が低い.
    労働者の賃金は低く,満足度,幸福度,士気が低い.
  • Y型企業
    資本集約型の企業であり,製品・サービスの付加価値が高い.
    労働者の賃金は高く,満足度,幸福度,士気が高い.
  • Z型企業
    労働集約型の企業であり,製品・サービスの付加価値は低い.
    労働者の賃金は低いが,満足度,幸福度,士気が高い.

X型,Y型の企業は誰が経営しても,そこそこうまくゆく.経営的には難しくない.
しかしZ型企業を実現するのは大変困難である.

■希望工場

世界の工場と呼ばれる華南地区にはX型工場が多くある.
華南にZ型工場(希望工場)はあるのか?
そのZ型工場はどのようにして設立され,維持されているのか?
つまり華南の多くのX型工場経営者が抱えている従業員に対する不満
  • 個人主義
  • ちゃんと働かない
  • 常に監督監視をしていなければならない
  • 協調性がない
  • モラルが低い

に対し,
意欲的な労働者は育成できるのか?
育成できるのならば,どのような方法で可能になるのか?
という課題を持って,継続的に華南の現場を観察をしていた.

2001年に原田氏が経営するSOLID社と出会った.以降毎年2,3回のペースで2009年に原田さんが急逝されるまで定点観測を継続した.

SOLID社概要:
1997年フィリピン華僑が深セン龍崗・坂田村に設立したSONY製品のOEM工場
創業以来2001年まで,一度も利益を出したことがない万年赤字工場.OEM顧客から切り捨て宣言を受け倒産寸前であった.
2001年7月,原田氏着任後,原田式マネジメントを導入し,意欲的な労働者を育成し信頼型経営により,希望工場を実現した.
生産品目は,ホームオーディオ製品.
年間の生産量変動が大きく,それに合わせて従業員数も変動する.
年間で毎月の従業員数が1000人から4000人に変動する.
作業員は16~24歳(平均19歳)の女子作業員が多い.
勤務期間が半年以内の従業員が2300人ほどいる.

 

以下にSOLID社で観察した,原田式マネジメント手法に対する明治大学のゼミ学生の分析を紹介する.

  • プロジェクト制度:志願者によるチームによって行われる問題解決活動.SOLID社内では常時30以上のプロジェクトが走っていた.

    「チームワークより自己成長の場を提供」

    プロジェクトで問題を解決することにより,自己成長する.その結果会社の業績に貢献し,チームワークも協調性も学ぶ.

  • 社内公募制度(内部昇進制度):社内売店の店員,文員の欠員募集,プロジェクトのメンバーなどは社内公募で採用される.作業員も含め全てに公平に機会が与えられる.

    「社内公募制度は自己成長の方向性を提示する」

    従業員のインタビューをすると,農村出身だった自分が立派な監督者になれたと涙ながらに語る女子職員が多くいる.

  • 人民裁判:昇進,内部登用,試用期間終了時に,全マネージャの前に立たされ質問を受ける.合格判定が全員の70%以上の場合合格となる.

    「構成・公平な昇進考課制度」

  • JR(ジョブローテーション)制度:SOLID社では係長2.5年,課長2年,部長3年しか同じポジションにいられない.必ず別の職場に異動しなければならない.

    「多能工(中間管理職以上)の育成」

    経営者を目指す人の成長機会となる.

  • ステップアップホリディ:試用期間が終わった者は,5ヶ月間別の会社で仕事をすることが出来る.ステップアップホリディ満了時には,そのまま別の会社に残る,SOLIDに戻ることを選択できる.

    「自己成長環境の確認」

    他の企業で働く体験をすることにより,SOLID社の成長環境のすばらしさを再認識する.
    (林注記)ステップアップホリディ利用者の80%はSOLIDに戻ってくる.

  • リベート防止:SOLIDでは,部材,補助材料から文房具まで購入品の単価が全従業員に公開されている.この様な制度と,業者からもらった物は,みんなのものだという意識付けをし,リベートを防止している.

    「不正が出来ない制度と,不正をしない意識付けの両輪で防止」

  • 多段階の人材育成:社内だけではなく,部品業者にも人材育成の方法を教えて,納入部品の品質・コスト・納期の改善を図る.

以上ゼミ生のレポートに見られるように,原田式マネジメントには日本的経営の要素が多く見られる.

ゼミ生はプロジェクト制度がどのように機能しているのかを調査するために2週間5つのプロジェクトに別れ調査をした.

  • 民工潮プロジェクト:人手不足で採用難になっていた時期に,新入社員が集まって,採用手法を検討した.その結果周りの工場が採用何の中,10倍の応募者を集めることが出来た.
  • 新入社員教育プロジェクト:入社2年目の若い従業員が中心となり,短期間で効率的に新人教育をする方法を検討.
  • サンシャインプロジェクト:管理職の相互育成.
  • 組織戦略プロジェクト:経営環境の変化に合わせ,柔軟な組織運営をするためSOLID社では半月に一度,組織変更を行っていた.その組織変更を検討するための部課長各6人によるプロジェクト.
  • コストダウンプロジェクト:コストダウンテーマは変わるが,プロジェクト制度発足期からずっとあるプロジェクト.

5つのプロジェクトの調査を通して得られたゼミ生の共通した結論は,SOLID社は企業大学であるということだった.

  • 非常に短期間で日本的教育を行う.
    SOLID社の3ヶ月=他社の3年
  • 成長空間に対する要求に応える.
    人格形成(素養),能力向上の機会を与える.

これらを達成することにより,中国の事情に合わせた日本的経営を実現した.
この短縮した人材育成システムが,流動の激しい労働市場を言う環境で成功した要因だ.

原田氏が求めた人材は
育成人材のタイプ

2008年8月酷暑の中,長時間残業という悪条件で働いている作業員に,入社前後の幸福度を調査したところ,明らかに入社後の方が幸福度が上がっていた.

これが,Z型企業,希望工場だと考えている.
これを検証するために,中国国有企業の社長にSOLID社を見学してもらい感想を聞いた.

国有企業社長の感想

SOLID社が持つ中国企業にない独自性:
・徹底した情報公開による情報の共有
・従業員全員の参画意識
・従業員全員に与えられる公平な成長チャンス
・個人の潜在能力を引き出すしくみ
これらの独自性により,SOLID社の従業員にとっては,仕事が各自の成長チャレンジに変わっている.

SOLID社の経営手法は学ぶことができるかもしれないが,SOLID社をコピーすることは不可能だろう.それはSOLID社の企業文化が原田氏というリーダの人格に依存しているからだ.

 

■ここまでの質疑応答
【Q】社員の退職数.離職率に関して.

【A】作業者・班長クラスの離職率が高い.
離職率が高いことにより,若くて低賃金の作業者を維持できる.
係長以上の監督・管理者クラスの離職率は低い.
短縮された人材育成が進むと,このクラスも離職率が高い方が,組織の活性化につながる.
大卒生でも初めの3ヶ月は,他の高卒作業者と一緒に現場で働く.自力で班長に昇進できなければ,辞めることになる.

【Q】原田氏の就任前後で経営数字が変わったか?
社員のやる気を引き出せば,経営数字が上がったのか?

【A】就任前はずっと赤字.就任後初めて利益が出るようになった.

【Q】再建は人を入れ替えたからうまく行ったのか?
前からいた人の意識改革が出来たのか,それとも新しい人に入れ替わったからうまく行ったのか?

【A】初めに,元の経営者層,日本からの支援者,原田氏の経営方針に付いてこれない者を辞めさせている.2100人から900人に減らしている.その後は毎日幹部層に教育をすることにより,人を入れ替えるのではなく,人を変える事により組織を変えていった.

【Q】Z型企業は,低賃金で且つ高満足度という矛盾したものを目指しているように思える.低賃金でも成長機会があれば,一時は満足度が高いだろうが,それが継続的に高い満足度を維持できるのだろうか?

【A】それを両立させるのが経営手腕.

■原田式経営哲学

経営理念

素質の高い人を集め,仕事を通して人を育て高効率・高品質・高報酬を目標に,明るく自由闊達な環境下で,お互いが感謝の心を持ち,夢と自主性に満ちた理想工場を作る

原田式マネジメント14か条

  • 育てる気持ちと許す気持ちがマネジメントの基本.
  • 自立心と参画意識と問題意識を育てろ
  • 経験的手法を使わず,独自性を使え
  • 目的目標を明確に
  • 愛社精神は二の次,社員の自己成長を願え
  • 言わせて,やらせて,任せて,Followしろ
  • リーダーを学歴で求めるな
  • マネージメントの結果は感謝心と信頼関係に比例
  • 規定を明確にしてから,叱れ
  • 自分は偉くなったのではない,リーダーとしての職責を得ただけだ
  • 権力で人を動かすな,人の心を掴み,人を使い,人を動かせ
  • 部下は見えても部下には見えない,自分の喜怒哀楽を明確に示せ
  • いざという時に行動し信頼されろ,又困難な時こそネアカであれ
  • 共に働き,言行一致,率先垂範で約束を守れ,部下は自分の鏡である

この14か条は読めば読むほど,新たな気付きが得られる.

経営手法を勉強させるために,ただ部下をよこす会社は成功しない.
経営者が変わらなければ,会社は良くならない.

短縮された人材育成システムがあっても,従業員全員が昇進できるわけではない.それでも人を育てる.それは近い将来母親となり,父親となる従業員の生涯教育をしている.

太陽レンズ理論
経営者は太陽であり,中間管理職はレンズだ.太陽の光をレンズが集め,従業員の心に火をつける.中間管理職は経営者の鏡.部下は上司の鏡.部下の出来が悪いと嘆く前に,自分を成長させる必要がある.

信頼関係
命令強制型の組織統治には限界がある.相互の信頼関係に基づいた組織でなければならない.

原田氏による経営者ランキング
三流の経営者は,利益の追求を目指す.
二流の経営者は,利益の追求とモノ造りを極めることを目指す.
一流の経営者は,ヒト造りを目指す.
企業経営とはヒト造りが目的であり,利益はその結果としてついてくる.

■経営学による分析

原田式経営を観察し続けた結果分かったのは,原田氏の経営は経営学理論どおりの経営だった.経営学理論というのはある種の理想論であるが,それを実現しているだけであった.
  • 人材育成と理念
    一般の経営者は,利益を上げるために人材育成をする.原田氏は人材育成を目的とし,利益はその結果と考えていた.
  • 人材育成方法
    人材が育つ制度を作り,不足分は事例で補う.原田氏は現場で見付けたことを元にし,日々事例で教育を継続した.
    原田氏の秘書(閻苗苗)は,その指導内容を原田語録として記録した.原田語録を読むと,原田氏がどういう事例を取り上げ,どういうタイミングで,どう指導していたか良く分かる.
  • 人材育成専念
    原田氏は通常業務を全て部下に任せ.時間のほとんどを部下の指導育成に当てていた.

■中国文化による分析

原田氏が亡くなった後,原田氏の部下や元部下たちのブログに書いた言葉.
大愛無彊
我的恩師
良師益友
不朽伝説
尊敬的教父

これらは経営学理論では説明がつかない.
中国人の部下や元部下たちの伝統的な心理を理解しなければならない.

中国人は昔から人の和を尊ぶ.
報恩(育てていただいた恩)の心を持っている.
尊重してやれば尊敬が得られる.

中国人は面子を重んじるので,部下を叱ってはならないというのは,ステロタイプな表面的な理解だ.
原田氏の部下たちは,原田氏に叱られることを,指導を受けることと理解しており,叱られることを心待ちにしている.

原田氏も,個人を叱るのではなくそれを事例として指導育成をしている.従って部下を呼んでこっそり叱るということはしない.みんなの前で叱る.
それが労働者思いの経営者として,多くの部下から報恩,感謝を集め,信頼関係を築き上げることになる.

中国で経営をする異文化経営者であるためには,

  • 人格者であること
  • 経営理念,哲学を持ち明確にすること
  • 従業員の育成をすること

が必要である.

Z型企業として低賃金,高満足を両立させる方程式

関愛→感謝→報恩→信頼

労働者が感じるZ型企業の価値

報酬+関愛+成長+感謝
これが報酬の多いY型企業の価値を上回る.

調査時に班長から得たインタビュー:

高校を卒業して4年間で自分は大きく成長した.今では監督者として仕事をしている.同級生は大学に進学を卒業したが,就職先が見つからない.
今の自分は同級生と違って,どこに行っても仕事が出来る自信がある.

絶望工場:人間の尊厳喪失の労働(F社の連続自殺の事例)

作業者は生産設備のひとつの歯車.
報酬が高くとも酷使と相殺され,孤独と絶望が残る.
経営者が人の心を理解できないので,従業員の行動が理解できない.
従業員に与えるべきは「金銭」なのか「希望」なのか?
会社が守らなければならないのは「利益」なのか「人間」なのか?

人材軽視の工場(絶望工場)
人材を外に求める工場(欧米,中華系工場)
人材を育てる工場(伝統的日系工場)

最強の企業文化は,育成と感恩である.
人間尊重と人材育成は,意欲的な労働者を育て,信頼関係を構築する.
これが「信頼型経営」である.

信頼型経営の本質・真髄は「育人感恩」だ.

■質疑応答

【Q】幸福指数を,在職者と退職者,他社比較などもっと多角的に調査できると面白いと思う.

【A】残念ながらデータはない.原田氏のようにオープンに調査させてくれる企業はまれである.

【Q】原田氏が経営した中国工場(Z型工場)は離職率が高いのに,満足度が高い.
これは矛盾していないか?

【A】3ヶ月以内の流動性は高い.中核社員はあまり辞めていない.
社内には忠誠心より感謝,感恩の精神を重んじる風土がある.
つまり人と人の関係に感謝し,自己成長に感恩を感じる.
このような風土の中で仕事ができることにより満足感が高くなっていると考える.

【Q】原田氏亡き後のSOLID社のその後は?

【A】SONYとの関係がなくなった時点で経営的にはうまく行っていない.
企業は経営者と労働者の関係で成り立っているので,経営者が変わればその関係も変わってしまう.
社長は太陽であり,社員はダイア.太陽がなければダイアは美しく輝かない.

【Q】今経営者が変われば,会社も変わってしまうとおっしゃったが,原田氏が築いた最低限のシステムも回らなくなっているのか?

【A】原田氏の弟子たちはSOLID社を辞して,新天地で頑張っている.SOLID社が今後どうなってゆくかを追跡調査するよりは,原田氏が育てた人たちが,原田式経営を継承できるのか?他の会社でそれが実るのかを調査した方が有意義と考えている.
今その調査を始めているところ.

【Q】原田氏は再建を始めて3年間毎日講義をしたというお話があったが,講義の内容は長期的な計画に沿って作られたものだったのか?

【A】原田氏は3ステップ・3年の再建計画を立てて取り組んだ.
Step 1.自立心の培養
Step 2.自主経営のStart
Step 3.自主経営の確立
教育・育成もこの計画に沿って行われた.

【Q】原田氏は,解雇などを含む厳しい処分を従業員に科したことがあるか?

【A】農村からの出稼ぎ労働者から部長まで上り詰めた女子社員を解雇したことがある.
彼女は不倫をし,それが業務に影響を及ぼした.そのため降格処分,解雇処分とした.
その後訴訟問題となったが,一切の妥協をせず訴訟にも対応した.
農村からの出稼ぎ労働者の優秀なモデルとして,育成をしたが,間違いに対しては厳しい処分をし,妥協をしなかった.

(林注記)ルール違反をした者には厳しい処分を言い渡した.それはオーナーの息子にも同様に適用された.彼は春節前に休暇を取ったので,解雇を言い渡した.さすがに本件は,中国人幹部たちが思いとどまらせ,解雇は撤回したようだ.
しかし一方で,作業員から登用されたばかりの文員さんが,消耗材料の発注をミスして数万元の不良在庫を作った.会社に大きな損害を与えたのだから解雇しようという製造部長に対し,原田氏は「自分の娘がたった一回過ちをしたときに,そんなに厳しく処分するか?」と諭したそうだ.

第三回東莞和僑会講演会

講演中のはお教授

第三回東莞和僑会には38人の方にご参加いただきました.
今回の講演テーマは,アンケートをいただいた方(17名様)全員から「非常にすばらしい」「すばらしい」のご評価をいただきました.

第三回東莞和僑会参加者集合写真

講演会後の懇親会

講演会の後,講師を囲んで懇親会.26名様にご参加いただきました.

参照サイト:原田式経営哲学

文責:林徹彦

林@クオリティマインド の紹介

中国広東省にて品質改善・経営革新コンサルをしています.
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